エビデンス快眠ライフ

快眠を妨げる「思考ぐるぐる」を科学的に止める習慣

Tags: 睡眠, ストレス, 快眠, 対策, 考え事

ベッドに入ると考え事をしてしまう、その背景にあるもの

多忙な日々を送る中で、ようやくベッドに入って眠ろうとしても、頭の中で仕事のことや悩み事、あるいは漠然とした不安が「思考ぐるぐる」と巡り始め、なかなか寝付けない経験をお持ちの方は少なくないでしょう。これは、脳が日中の覚醒モードから休息モードへスムーズに切り替わることが難しい場合に起こりやすいと考えられています。特にストレスが多い状況下では、脳の扁桃体などが過活動になりやすく、リラックスして眠りにつくことを妨げる可能性があります。

このような「思考ぐるぐる」は、睡眠の質を低下させるだけでなく、入眠困難を引き起こし、結果として睡眠不足につながります。睡眠不足は日中の集中力や判断力、そしてストレス対処能力の低下を招く悪循環を生み出すため、この問題への対処は快眠と日中のパフォーマンス維持のために重要です。

科学的な知見に基づいたアプローチを取り入れることで、この寝床での「思考ぐるぐる」を軽減し、よりスムーズに眠りにつけるようになることが期待できます。ここでは、多忙なビジネスパーソンでも取り組みやすい、いくつかの実践的な方法をご紹介します。

科学的示唆に基づく「思考ぐるぐる」対策

1. ウォーリータイム(Worried Time)の設定

夜、眠りにつく直前に悩み事が浮かんできやすい方は、意図的に「考え事の時間」を設けることが有効であると示唆されています。これを「ウォーリータイム」と呼ぶことがあります。夕食後から寝るまでの時間帯(例えば、寝る2〜3時間前)に15分〜30分程度、意識的に自分の悩みや考え事について向き合う時間を作るのです。この時間以外は、考え事が浮かんできても「今はウォーリータイムではないから、その時間に考えよう」と意図的に先送りします。

この方法の目的は、寝床を「考え事をする場所」から解放し、脳に「考え事の時間は終わった」と認識させることです。日中に悩みや不安を表出させる時間を設けることで、夜間の思考の反芻を減らす効果が期待できます。多忙な中でも、帰宅後の短い時間を利用して試すことができるでしょう。

2. 寝る前のジャーナリング(思考の書き出し)

ベッドに入る1〜2時間前に、頭の中でぐるぐる考えていることを紙やノートに書き出す方法も有効です。これを「思考のシャワー(Thought Shower)」や「ブレインダンプ(Brain Dump)」などと呼ぶことがあります。書く内容は、悩み事、to doリスト、その日あった嫌なこと、心に引っかかっていることなど、何でも構いません。

研究によっては、寝る前に翌日のto doリストを短時間書き出すだけでも、入眠までの時間が短縮される可能性が示唆されています。これは、思考を物理的に「外に出す」ことで、頭の中が整理され、脳が「考え事を一旦保留にできる」状態になるためと考えられます。手軽な方法であり、スマートフォンやPCの使用を避けるためにも、紙とペンを使うのが推奨されます。

3. リラクセーション法の活用

身体の緊張を解きほぐし、心を落ち着かせるリラクセーション法も、「思考ぐるぐる」から意識を逸らし、眠りへ誘う助けとなります。簡単な呼吸法や、特定の筋肉を意図的に緊張させた後に緩める筋弛緩法などがあります。

例えば、ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口から長く細く吐き出す腹式呼吸は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果が期待できます。これらの方法は特別な道具や広いスペースを必要とせず、短時間で行えるため、寝る前の習慣として取り入れやすいでしょう。継続することで、リラックス状態へスムーズに移行できるようになる可能性があります。

4. 刺激制御法の考え方を応用する

認知行動療法に基づく「刺激制御法」では、ベッドや寝室を「眠るためだけの場所」として脳に強く関連付けることを目指します。この考え方を応用し、ベッドに入って20分程度経っても眠れない場合は、一度ベッドから出て、眠気を感じるまで静かに過ごすというのも一つの方法です。そして眠気を感じたら再びベッドに戻ります。

これは、ベッドを「眠れないまま考え事をする場所」として脳が学習してしまうのを防ぐためです。繰り返し行うことで、脳はベッドに入ることと眠りにつくことをより強く結びつけるようになると考えられています。最初は面倒に感じるかもしれませんが、長期的に見れば寝床での「思考ぐるぐる」を減らすことにつながる可能性があります。

ご自身に合う方法を見つけるために

ここでご紹介した方法は、科学的な示唆に基づいた取り組みの一部です。すべてを一度に試す必要はありません。まずはご自身が「これなら続けられそうだ」と感じるものから一つ、あるいは二つ選んで試してみることをお勧めします。

これらの習慣は即効性があるとは限りません。数日から数週間、継続して取り組むことで効果を実感できるようになることが多いようです。もしこれらの方法を試しても改善が見られない場合や、「思考ぐるぐる」が日常生活に大きな影響を及ぼしている場合は、専門医やカウンセラーに相談することも検討してください。

快眠は、日中の生産性を高め、心身の健康を維持するための基盤です。ご自身の生活スタイルに合った方法を見つけ、質の高い睡眠を目指しましょう。